2020年9月30日水曜日

2020/9/12-13 野生動植物生態学実習

 続いて、9/12-13に五十嵐キャンパスに出張して実施した「野生動植物生態学実習」をご紹介します。


こちらの実習は本来お盆明けに佐渡で開講する予定だったのですが、ちょうどお盆前に新潟県内で陽性者の報告が相次いだこと、また帰省や旅行で島内外を往来する人が多く公共交通機関での移動リスクが高いことなどから、急遽9月に日程と実施場所を変更したという経緯があります。


ただ、実習は「樹木を根っこから葉っぱ一枚まで丸ごと測定してみよう(意訳)」という内容なので、必要な器具の多くは佐渡演習林から運ぶ必要がありました。

そのため我々教員3名は、前日金曜から大量のヘルメットやらのこぎりやらに囲まれながらの大移動となりました。


さらに、五十嵐キャンパスで調査可能な樹種は限られます。

演習林で実施した昨年度の実習では、ブナ・サワグルミ・イタヤカエデ・トチノキ・カツラと、冷温帯を代表する5樹種を班ごとに分担して調査しました。

自由に伐採し、根こそぎ引っこ抜いても誰も困らない(むしろ助かる?)対象といえば…「外来種」ですね。


そうして選ばれた今年度の実習対象木は、ハリエンジュ(ニセアカシア)。

強い香りの白い大きな花ははちみつの蜜源にもなり、古くから街路樹や公園の緑化植物として利用されてきました。

しかしその強い生命力と繁殖力によって人間が管理可能な範囲の外にも分布を拡大し、日本固有の自然生態系を脅かすやっかいものとしての側面もあります。

五十嵐キャンパス構内でも、まだ若いハリエンジュの樹が多くはびこっていました。


1日目:樹木の形質(樹高/地際径/葉・幹・根の湿重量/潜伏芽の観察)、葉の光合成に関わるデータ(気孔コンダクタンス/葉緑素/野外環境の光量子)の測定など

まずは農学部の圃場で調査対象とする樹木個体を選定します。

とはいえ、ハリエンジュは水平根によって次々とクローンを形成するため、調査に適した「個体」を選ぶところから難問です。

担当する「個体」が決まった班から、野外での測定や伐採、根の掘り起し、幹の皮はぎといった地道な作業が始まりました。

(…でも意外と、この体育会系な作業にはまってしまう学生さんも多いようです)

葉の測定用の機械の使い方を学びます

すべての葉をむしり取るのは大変!!

パワー系男子の活躍で掘り起こされた根っこ

猫はのんびり見守っていました

巣ごとさらわれてきてしまったのか?
アルミホイルを丸めたようなギンメッキゴミグモ

作業は17時を目途に終了。
以降の時間は、オプションとして「菌類生態学入門」の講義が行われました。
植物の成長や森林生態系を学ぶ上で、切り離せないのがこの菌類との関わりです。
今年度は実際に菌根を観察したり周囲のキノコを紹介したりする機会がなかったのが残念ですが、遅い時間まで熱心に聞いてくださった皆さん、ありがとうございました。

2日目:葉の形質(面積/厚み/気孔)、年輪の測定など

この日は昼頃から大雨の予報。

実習を実施できるか心配でしたが、無事にすべての班が前日までに野外作業を終えていました。

そのため2日目は比較的余裕をもって、室内での気孔観察や年輪測定、レポートのためのデータまとめが行われました。


昨年度の実習では「気孔密度」も重要な測定項目の一つだったのですが、今年度は密度計算は実施しませんでした。

その理由がこちらの写真。

スンプ法という方法で葉の表面の型(凹凸)を写し取った画像です。

気孔が2か所写っています
…わかるでしょうか?



正解はこちら
周りの細胞の凸の隙間に埋もれるように
小さな唇が見えます

こちらの画像はきれいに撮れた班の一例ですので、実際の観察ではさらにわかりづらいと思います。

ハリエンジュという植物の気孔は恐ろしいほど小さく、局所的に埋もれるように分布しているという特徴が観られました。


さあ、これらの集めたデータから「ハリエンジュ」という植物の生き方はどのように考察されたのでしょうか?

測定項目やデータも多く、きっとレポートまとめも大変だと思います。

実習に参加された皆さん、暑い中本当にお疲れさまでした!


…実は今回の実習では、ハチ刺され(アシナガバチの仲間)や熱中症の被害が相次いでしまいました。

学生さん達はお盆明けから実習が続いていたとのことで、疲れもたまっていたのでしょう。

体調不良のときは無理をせず、休憩しながらできる範囲で参加してくださいね!



実習が終わり、最終フェリーで佐渡に戻って帰宅したのは23時過ぎ。

しかし翌日からはまた1週間連続の実習が始まるのです…。

9月の実習ラッシュはまだまだ続きます。


2020年9月29日火曜日

要注意!!!猛毒キノコ カエンタケを確認

 さて、9月の実習詳細の報告も行わなければ…と思いつつ、一足先にお伝えしておきたい要注意なキノコの話題です。

「フィールドワーカーのためのリスクマネジメント実習」のA班の登山の最中、内海府~演習林尾根へとつながる登山道脇で、最恐クラスの猛毒キノコとして有名なカエンタケを発見しました。

ちょうど人間の指くらいの太さと長さ
基部に虫食いの穴があり、内側が白いことがわかります

左の二つはまだ小さいので、さらに伸びそうです

こちらは、毒キノコのなかでも唯一「触っただけでも皮膚がただれる」という危険な代物。

見た目はサンゴのようでかわいらしくも見えますが、見つけても絶対に触らないでください!!!


間違って食してしまった場合には10分程度で消化器系の症状が出始め、次第に循環器系や呼吸器系の重篤な症状に移行し、死に至る可能性が非常に高いようです。

また、回復した場合にも言語障害や運動障害など多様な後遺症が残る可能性があるとのことで、その毒性の強さがわかりますね。


普段の生活で遭遇することは少ないと思いますが、他の有名毒キノコ達よりもよっぽど恐ろしいと思いました。

…実は一部を顕微鏡で観察しようと持ち帰ったのですが(もちろんグローブ着用+使い捨ての箸でつまんで採集し、紙袋+ジップ袋で密封)、あまりの恐ろしさに開封することをあきらめ、そのまま火葬しました。


しかし、菌類の本体である菌糸は周辺一帯に蔓延していることでしょう。

エコツアーでも利用されるルートでもあるため、お互いに注意喚起をしていきましょう!


2020年9月22日火曜日

実習中の自然観察いろいろ♡

世間では大型連休。どうりで土日は山道に車が多いはずです。

佐渡演習林では、大型連休ではなく、大型実習(8月31-9月4日の育林実習2回と12-13日の野生動植物生態学実習と14-20日のリスクマネジメント実習2回)が終了しました。怒涛の野外実習では、腰を痛めたり熱中症が相次いだり(気を付けていたのですが…)、「無事」終了とはいきませんでしたが、なんとか乗り越えた感じです。レポートなどまだ課題提出が残っているかと思いますが、涼しくなり、頭も冴える季節になりましたので、もうひと頑張りしましょう!お互いに…

さて、野外実習では、実習のテーマに取り組むだけではなく、周辺環境に目を配り、五感を使って感じることが重要です。いろいろな発見が卒論のテーマにも繋がるかもしれませんし、何より人生の深みに繋がるでしょう!

ということで、実習中の自然観察いろいろ。

まずは、分類が分かれてニホントカゲからヒガシニホントカゲに分類されたヒガシニホントカゲ(くどいですね・・・)佐渡島のはヒガシニホントカゲ。頭のところの前額板が接しないのが識別ポイントの一つだそうです。写真だとちょうど見えないですね・・・

お気づきでしょうか?幼体ではないのに尾っぽがきれいなブルーです。雌ではこういう個体もあるようですが、佐渡島では多い気がします。
ほぼ幼体のようなきれいなブルーですが
成熟メスだと思われます

そして、待ち時間に捕まえたサドマイマイカブリ。ついでにご飯のカタツムリも捕まえます。夜は捕食の様子を観察しました(一部有志で)。
サドマイマイカブリ、やはり殻を大あごで壊して食べるのですが、顎よりも固い殻をも溶かしているような消化液がびっくりでした!

イラクサ科で警戒されますが、こちらは棘のないアカソ。似たもので棘のあるミヤマイラクサ、棘のないコアカソ、ヤブマオもありますが、アカソが一番多いです。
左に雄花、右にぼんぼりのような雌花
この時期に咲くんですね!
キアゲハの幼虫
赤い点々が可愛いです!
大きなサルメンエビネらしきがいっぱい
果実がついていました
こちらは春植物の女王様。わかりますでしょうか?変な形の果実がついていますね。
中にはユリの種子のような羽根つきの種がたくさん
正解は「シラネアオイ」。春の花を観察してみてください。白い目玉みたいな大きな柱頭が2つ見えると思います。そして果実も2つの袋果(互いに合着しています)。日本固有種の1属1種です。

朝、演習林の倉庫ではクスサンが2匹おりました。
こちらは典型的なクスサン
赤茶色の大きな蛾で、目玉模様が特徴的
ヤママユガ!?と思ったけれど同じ目玉模様
クスサンですが、青緑っぽいきれいな色でした
日本の美という感じですね。

こちらはまたまたへんな果実
ヤマシャクヤクです
赤と黒のコントラストが毒々しいですが
種子散布者には見えやすいバイカラーです
同じようなバイカラーに、この時期はトチバニンジンの果実やコブシの果実がありますね。

秋の恵!ナメコ発見‼と思い、アドレナリン全開で採取したのですが、なんか柄が長く、傘の裏が黒っぽい(前日が大雨なので色が変わったのかと思ったのですが・・・)
群生していたナメコのようなキノコの正体は
M先生に胞子など特徴を見ていただいたところ、センボンイチメガサかその近縁種のようでした。センボンイチメガサには毒はないようですが、とても似たキノコにドクアジロガサ(コレラタケ)という猛毒のキノコがあるので、くれぐれも気を付けないと…と反省。

気を取り直して、山の恵を採取!と思ったら、ウワバミソウ(ミズ)によく似た植物が。
ヤマトキホコリ(通称アオミズ)です。こちらも山菜として食べられるよう(採ればよかった・・・)。この時期、アカソの雌花のような花がついています。一方ウワバミソウはむかごがついています。
ヤマトキホコリは雌雄異花(雌雄同株)
左が花付きのヤマトキホコリ
右がむかご付きのウワバミソウ
ウワバミソウはたくさん採取しておいしくいただきました!ああ、アオミズとの味の比較をすればよかった・・・

最後に、紫色のきれいなアザミの仲間。分類が難しいです。キクアザミかシラネアザミかと思ったのですが…

一番、形態が一致するのがカムロトウヒレンSaussurea sawaeでした。ちなみに、とてもよく似ているミヤマキタアザミから、2015年(Kadota)にウゴトウヒレンとカムロトウヒレンなどの新種が分かれています。

色々と見ていきましたが、これも、ごく一部のみです。また随時報告します!

2020年9月19日土曜日

【予告】佐渡島漂着イノシシ掘り起こしワークショップ10/31-11/1

佐渡島の海岸に漂着したイノシシを掘り起こし、観察するワークショップを開催します!海を越えてやってきたイノシシのホネはさまざまな物語を持っています。ホネを堀り、ホネを観察することで、その生きざまを知るだけでなく、佐渡島へ漂着する生物の謎を解き明かすことが出来るかもしれません。2日目はホネの魅力を語りつくす楽しい講演もあります。

講師は西澤真樹子さん。大坂市立自然史博物館友の会評議員、貝塚市立自然遊学館など、フリーランスとして博物館のコレクション整理や標本制作にかかわっています。2003年大坂市立自然史博物館を拠点に標本制作チーム「なにわホネホネ団」を結成し、ホネホネ団の団長としても有名です。

講師:大阪自然史センター西澤真樹子・新潟大学教員及び学生

協力:永井エヌ・エス知覚科学振興財団・佐渡市

1031日のワークショップに参加希望の方はメール(sadoken2011@gmail.com)をお願いします。予告のため、スケジュールの多少の変更はあるかもしれません。10月初めごろに詳細を連絡します。11月1日の講演に参加希望の方は佐渡市の広報が出るまでお待ちください。

■1031日(土)定員12名程度(大学生までを優先します)※事前申し込みが必要です!参加費は保険代のみ500円です。締め切り10月23日(金)まで。

900 佐渡博物館前集合予定→弁天シーサイド脇の駐車場

930-1130 素浜でイノシシ掘り起こし

各自お昼休憩後、移動(車で1時間半くらいかかります

1400 新潟大学佐渡ステーションに移動、洗浄、パズル

1630ごろ 記念撮影して終了

※天候等により掘り起こしが実施できない場合はイタチとテンの解剖ワークショップになります(佐渡ステーションで実施)

 

■111() 定員50名(佐渡市民向け環境講座で広報します。)

1000-12:00 あいぽーと佐渡

    骨の魅力:大阪自然史センター 西澤真樹子

    佐渡の生物はどこから来たのか? 

2020年9月17日木曜日

2020/8/31-9/4 育林系演習及び実習

お待たせしました、今年度の第一陣の実習となった新潟大学農学部の「育林系演習及び実習」の様子をご紹介します!

新型コロナの影響で、宿泊形式の実習再開までは非常に緊張感がありました。
もちろん、万が一の場合に備えて可能な限りの対策を行っています。

佐渡島は専用病床の数が少なく、高齢な方も多い環境です。
特に演習林では地元出身のスタッフも多いため、当センターの他施設よりも一段と厳しい対策が必要だと感じています。
受講する学生さん達には「来島2週間前からの行動指針」として、県外への移動自粛や継続的な健康チェックのお願いをしております。
また多人数が密状態となることを避けるために、受講生を2班に分けて、同じ内容の実習を2回連続で実施しています。
(今回は 8/31-9/2 はA班、9/2-9/4 はB班)

学生の皆さんも、今年度はオンライン授業や休日も自粛で遠出できないなどの制約が多く、大変な状況でしょう。
その中でも、皆さん一人ひとりが新しい生活ルールに対応して下さり、非常に有難く感じています。


そのような環境下で行われた実習の様子はこちら↓
実習内容は同じなので、A班とB班の様子を混ぜて紹介します。
野外作業中はマスクを外している人もいますが、熱中症を防ぐためですのでご理解ください。

1日目:到着~なた研ぎ
演習林の宿舎に到着後は、陽が沈まないうちにすぐに「なた研ぎ」の実技が始まります。
先輩たちが使い込んできたなたを、今年も新たな3年生が自分仕様に研いでいました。
中には、技官さんにOKをもらってからも理想の研ぎ具合(?)を追求して黙々と研ぎ続ける学生もいました。
コツをつかむと楽しいようですね。

なた研ぎの手順を教えるH先生

技官さん達にも指導を受けます

納得がいくまで研いでいます

夜は、残り2日の作業内容に関する講義(ガイダンス)もありました。
今年はこのような風景もなかなかお目にかかれません

長い1日目、お疲れさまでした!

2日目:除伐・枝打ち・間伐
いよいよ2日目は、前日に手入れをして切れ味抜群なはずのなたやのこぎりを使って、現場作業です。
演習林尾根沿いの広葉樹試験地周辺で、スギ人工林内や気象観測装置周辺の雑木を除伐しました。
Before: 細い広葉樹(ミズキ)と下層植生だらけの場所が…

After: こんなに奥まですっきり見えるようになりました


…ところが、A班の実施中に思わぬアクシデントが。
長い自粛生活明けに急に体を動かしたためか、腰や背中を痛める学生が続出したのです。
小中学生なども体育の授業でケガが増えているとニュースで見ましたが、大学生にも同様の影響があったようですね。
このため、B班や以降の実習では、体を動かす作業の前には準備運動を取り入れることになりました。
皆さんも、運動不足にはご注意を!!

午後からは、同じ場所で「一本はしごを用いた枝打ち」と「チェーンソーを用いた間伐」を2グループに分けて同時進行で行いました。

安全帯をつけて、はしごの頂点(約6m)でバンザイ!

枝を切り落とすのに力が入ります

チェーンソーの構造や使い方を説明中

玉切りの練習も、先生が付き添ってくれるので安心です

技官さんが伐採した切り株の断面を観察

積雪の影響で中心が大きくずれ、偏って成長しています!

B班は人数が少なかったため、余った時間でオマケの植物分類実習。
今年はフィールドにでる時間が少ないからか(それとも別の要因か…?)、自分達が伐採している樹木の名前もわからないという学生が多かったようです。

この葉っぱの樹種名はわかるかな?

3日目:植栽~帰宅
最終日は、午前中に岩谷口集落の土地にスギの苗を植栽し、刈り払い機の使い方を学んでから午後のフェリーで帰宅しました。

まっすぐ、抜けないように植えてくださいね

炎天下の穴掘り作業に苦戦中
(特に石が多い場所は大変でした)

猛暑の最中だったので、水もあげながら

良く育つように周囲を刈り払いして

無事に植え終えました!!(A班)

苗を挟めば自然とソーシャルディスタンス(B班)


皆さん暑い中、山での作業お疲れさまでした!!
各班にとっては2泊3日の短い滞在でしたが、野外作業の時間が長いので自粛生活もリフレッシュされたでしょうか。

この実習を皮切りに、10月半ば頃までは次々に実習が行われています。
2班制になったことで実習全体に要する期間は長くなり、教職員も急な忙しさに目を回しそうな毎日です。
特にH先生は実技や講義の担当が多いので、お疲れのご様子。
スタッフ側も体調を崩さないように気を付けなければいけませんね。

これから続々と実習の様子を更新していきますので、そちらもお楽しみに。

2020年9月6日日曜日

育林実習中の植物と送粉者

 育林実習(コロナ対策のため2回に分けて行った)が無事終了しました。猛暑の週でしたが、標高や風、木陰のおかげて、低地に比べればなんとか熱中症になることもなく、良かったです。実習報告は後ほどとして、実習中の植物をいくつか。

植栽を行った場所は日当たりがよく
ツルニンジンがもりもりに花をつけていました
奥の5つの隅から蜜が出ており
アリが夢中で舐めていました
学生も夢中に舐めていました(笑)
ジーソブといわれるツルニンジン。大きい根を鍋にして美味しくいただきました!
オトコエシ(オミナエシ科)やオオシシウド(セリ科)にはたくさんの昆虫が来ていました。
ハエ目の何か
口吻をあてて一生懸命
可愛いです
チョウも多いですね
こちらはサカハチチョウ
ヒョウモンチョウとサカハチチョウ(奥)
お昼過ぎには、受粉できなかったのか
ツユクサが遅延自家受粉をしていました
ノコンギクも花盛りでした。30℃を超える日中でも秋を感じます。