Advancing Timberline on Mt. Fuji between 1978 and 2018
Hitoshi Sakio and Takehiro Masuzawa
Plants 2020, 9, 1537; doi:10.3390/plants9111537
https://www.mdpi.com/2223-7747/9/11/1537
新型コロナウイルスの影響により、大変残念なことに、今年度はこれまで学外からの実習受け入れは無しという状況になってしまいました。
毎年10件以上の実習で30以上の機関に利用していただいていたので、寂しい限りです…。
そのような折、東邦大学理学部生物学科の教員との連携により、同大の実習科目の一部の講義をオンラインで佐渡演習林の教員が担当するという試みが実施されました!
今回は、新潟大学の農学部で実施されている「フィールド安全論」や「フィールドワーカーのためのリスクマネジメント実習」をベースとして、野外調査の初心者に向けた安全対策の重要性や具体的な注意点を学ぶことができる内容です。
過去に起きた実際の事故事例の紹介から始まり、野外活動の際の詳細なスケジュールや連絡先の共有方法、保険手続き、天候や地図の読み方、オフロードでの自動車走行、傷病時の手当てなどなど、実践的に役立つ知識が中心です。
1ターム分の講義&実習から重要な部分を2コマ(90分×2回)にぎゅーっと凝縮したため、盛りだくさんの講義となりました。
東邦大学からは教員1名、大学院生2名、学部生12名の計15名が参加してくださいました。
教員も一人ずつ、個別のパソコンから参加します |
受講者の学生さんの多くは、まだフィールド経験が少ないようでした(コロナウイルスの影響がなければ今年から野外でばりばりと作業する予定だったとのこと)。
受講後の感想では「大変参考になった」「危険はすぐ近くにあるということを頭に入れながら調査を行っていきたい」などの声が多く聞かれ、これから実際の自分の活動と結び付けて活用してくれることを期待しています。
早く野外に出たいとうずうずしている方も多いと思いますが、今回の内容を思い出しながら安全に楽しい調査を行って下さいね。
別室から講義中のH先生 |
…確かに自分が学生の頃の調査活動を思い出すと、調査に出る前には考えてもいなかった危険に遭遇することも多かったですね(熱中症で人気のない林内で動けなくなったり、スズメバチの巣にニアミスしていたり…)。
ヒヤリハットの積み重ねから後付けで対策してきたことばかりで、意外と安全に野外調査を行う方法を体系的に教えてもらう機会はなかったように思います。
楽しい野外調査と重大事故の発生の差は、きっと紙一重なのでしょう。
「絶対に安全な野外調査などない」
この言葉を忘れずに、今一度装備の安全性や道具の使い方などを確認しておこうと思いました。
全国的に対面授業も再開し始めたようですが、いきなり元の水準には戻せないため対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で実施する大学も多いようです。
そのようなときに、オンライン講義でも佐渡と遠隔でつながったり、こちらが現地の生物や自然景観を映像でお届けしながら説明をする、といった連携講義も今後行われるかもしれません。
この新型感染症の全世界的な収束の目処はまだ立っておらず、当演習林でも来年度以降の学外実習の受け入れ可否は不透明な状況が続きそうです。
(以前のような定員もスケジュールも密状態での受け入れは難しくなりそうですね。少しずつでも回復できれば良いのですが…)
今後もこのような新しい形式での共同利用や教育研究活動の方法を模索していく必要があります。
直接、佐渡の演習林に来て生の森林や自然環境を体感していただけないのは残念ですが、オンラインであるからこその利点を生かした方法も考えていきたいと思います。
利用機関の皆様からも、ご提案やご相談があればお気軽に連絡していただければありがたいです!
利用者のニーズに合った「新しい共同利用形式」を一緒に考え、作っていきたいですね。
10/31(土)に行われた「漂着イノシシ掘り起しワークショップ」に続き、翌11/1(日)には第42回佐渡ゼミとして「佐渡島の生物はどこから来たのか?(阿部晴恵・新潟大学佐渡自然共生科学センター)」「ホネの魅力(西澤真樹子・なにわホネホネ団/大阪自然史センター)」の講演が行われました。
こちらは、佐渡市が一般市民を対象として開講している佐渡市市民環境講座との連携講座にもなっています。
演者を除き、新大関係者を含め58名が聴講しました。
佐渡市市民環境講座の広告 |
まず、当演習林の阿部先生の講演は「日本列島及び佐渡島の成り立ち」「過去数十万年の間に起きた気候変動及び海面変化」などの地史に関する紹介から始まりました。
私たちは過去に堆積した地層や化石などを基に、いつの時代に海底または陸上であったのか、現存する生物がいつどこからどのように移動してきたのか、などを推測することができます。
佐渡島は約500~250万年前頃に海底が隆起して現れたと言われ、日本列島とは長い間(もしかするとこれまでずっと)地理的に離れた状態が維持されている海洋島です。
(一時的に日本列島とつながったことがあるという説もあるようですが、地理的隔離状態が長いことには違いありません。)
また、佐渡のような海洋島に生物が移入する場合の3つのWのパターン「Wind; 風に飛ばされてくる,Wing; 翼で飛んでくる,Wave; 波に乗って運ばれてくる」の説明などがありました。
近年では生物各個体の遺伝情報に基づいて分布域の変遷や種分化の過程を解明する系統地理学的なアプローチも進められています。
この方法は周辺地域に分布する個体を含めて多数の遺伝情報を比較することで、どの地域間に遺伝的な類似性があるのか、どこが祖先的でどこが後から派生した系統か、などを明らかにすることができます。
遺伝情報の地理的な関係性と地史に関する情報を組み合わせることで、特定の地域の個体がいつどこから来たのか、を推定することにつながります。
講演では、サドモグラやアカネズミなどの佐渡に元から生息する動物の研究例が紹介されました。
定員の約5分の1に制限されましたが、多くの方が参加してくれました |
現在、佐渡にイノシシは分布していません。
そして今回佐渡の海岸に漂着したイノシシは、どこから流れて来たのかわかっていません。
今後万が一にも生きたまま佐渡に上陸して新たな生息地として定住してしまったら…次々と子どもを産んで数を増やしてしまったら…どうなるか想像できますか?
佐渡の豊かな農作物も貴重な生態系も大変な被害を受け、元の生活に戻ることは困難となってしまうでしょう。
そのようなリスクを未然に把握して対策を講じる意味でも、この漂着イノシシの由来を調べることは重要なのです。
また現在佐渡に生息する動物でも、イタチやタヌキは移入動物とされているとのことですが、移入時期や経路は詳しく調べられていないようです。(※テンのみ、人間による明確な持ち込みの記録あり)
このように、佐渡のような海洋島は生物の移動暦や進化といった過去の履歴を時空間的に解明する上で重要な意味を持ちます。
将来的には、他の地域から佐渡に現存しない生物が移入してしまうと生態系も変化してしまう可能性があります。
過去から未来へとつながる生物や環境の変化を推測するためにも、現在、この島に生息する生物の地道な調査を続けていくことが必要ということですね。
そして、そのような調査を続けるうえで欠かせないのが「標本」です。
続いて本講座のメインである西澤氏の講演では、市民と博物館が一体となって標本作成を行う「なにわホネホネ団」の活動における楽しさと苦労、何よりもその重要性が語られました。
ホネの話を詳しく聞くのは初めてという方も多かったのでは |
ホネをはじめとする生物標本は、その生物のサイズや形態そのものだけではなく、多様性や生活を知るための重要な情報源となります。
同じ種だから1つあれば十分なわけではなく、性別や年齢、地域、年代を含めた様々な標本が存在することが重要であり、それらを実際に並べて比べることで初めてわかることもある、という話が印象的でした。
日頃から多くの標本を扱っているからこその説得力がありますね。
さらに、なにわホネホネ団の標本作成の活動には小学生も参加しており、知識の上では優位なはずの研究者や大学生であっても、標本作成技術では小学生に謙虚に教えを請う姿がよく見られる、というエピソードもありました。
…確かに今回の漂着イノシシワークショップでも、子供たちの方が黙々と慣れた手つきで(コツをつかむのがうまいのでしょう)ホネのクリーニング作業に取り組んでいた印象が強いです。
前日のワークショップの様子…大きな背骨(胸椎)の洗浄も一人でやり遂げるという強いこだわりが感じられました |
将来が有望で楽しみです!
また講演の合間には、大阪市立自然史博物館に所蔵されている実際のホネ標本を聴講者が観察し、その種名や佐渡での生息有無を当てる「ホネクイズ」が行われました。
ホネだけの姿になってしまうと、意外とわからないものです… |
会場の一部では、西澤氏が所属する大阪市立自然史博物館のグッズ販売コーナーも準備されました。
そこには、前日のイノシシの骨の掘り起しに参加した子供や学生らの姿も。
すっかりホネの魅力に憑りつかれた様子の子供たちは、さらなる勉強のためにホネホネ団の本を買い求めていました。
かわいいイラストのサイン入りでうらやましい! |
これから佐渡でもホネホネ団のような市民参加型の標本作成が可能な組織や設備が整えられ、佐渡発信で生物の歴史が明らかにされていくことを期待しています!!
さて、イノシシ掘り起こしワークショップは、佐渡島への生き物移入のルートや、もしかしたら泳いでやってくるかもしれないイノシシについて知るための、とても貴重な研究にも繋がります。
ワークショップは以下の流れで行いました。
①2020年4月に佐渡市素浜に漂着したイノシシ(保健所で消毒済み)の掘り起こしと骨の分別・洗浄作業
②タヌキの解剖の見学や、様々な哺乳類の骨格標本のクリーニング、骨パズルの組み立て体験
①の作業では、最初は「臭い~」や「気持ち悪い~」といって初めはなかなか乗り気じゃない子も、マキコ団長の生き物の体に関する説明や現代の佐渡島第一号イノシシ標本となる貴重なご遺体であるという話を受けて、ピシッと空気が変わり、粛々と皮の中から骨を探し、団長から分配される骨を厳かに受け取りました。受け取った骨を洗いつつ骨をじっくり見ることで、最終的には臭いも気持ち悪さもどこへやら、時間も忘れ興味津々で作業していました。かくいう自分も最初はにおいにやられて乗り気じゃなかったのですが、骨を探す作業(マキコ団長の助手)が途中から楽しくなり、夢中で骨を探してました。
タイトルが情報過多ですね(笑)
意味を捉えるまで混乱してしまう方もいるかもしれません。
まずは写真をどうぞ。
落ち葉の隙間から謎の黒い棒がにょっきと出ていました |
掘ってみると…何かに絡みついている? |
これが「地下生菌ツチダンゴに寄生するキノコ、ハナヤスリタケ」です。
見ても何がどうなっているのかわからない、という方もいらっしゃるでしょう。
こちら、下の丸いお団子のような塊がツチダンゴ属(Elaphomyces sp. )のキノコです。
直径は4cm程度 |
拡大すると表面に突起があります |
外皮表面はごつごつとした突起に覆われています。
一部が裂けていますが、内部の詳細な様子はわかりません。
地下生菌を専門に研究する神奈川県博の研究者の方に見ていただいたところ、宿主はツチダンゴ(Elaphomyces granulatus)かアミメツチダンゴ(Elaphomyces muricatus)と思われるが、標本の状態から正確な同定は難しいとのことでした。
私が赴任する前の2012年に、当演習林でも地下生菌調査が行われたとのことですが、その時にツチダンゴ属菌は観察されなかったようです。
https://sadoken.blogspot.com/2012/11/blog-post.html
実は、この地上からは見えないキノコを探すにはなかなかの根気と勘が必要です。
以前に別の場所で調査に同行させていただいたことがあるのですが、可能性の高い場所をひたすら熊手で掻き続け、1日かけてようやく1個(4人で計4個)の収穫でした。
まるで宝探しです(笑)
一方、このお団子にはオレンジ色の根っこのようなもの(菌糸)がまとわりついており、上に向かうにしたがって黒く堅い棍棒状になっています。
こちらがハナヤスリタケ(Tolypocladium ophioglossoides )という別のキノコです。
地上に出ているのは黒い部分のみ |
拡大すると凹凸がはっきり見えます |
棍棒の先端は、クレーターのようなぼこぼこした突起に覆われています。
キノコに寄生する菌寄生菌ですが、冬虫夏草の仲間として認識されています。
(見た目は冬虫夏草サナギタケとよく似ています)
しかし虫に寄生することはなく、もっぱら菌専門、特にこの地下に潜ったまま生活するツチダンゴ属菌に特異的に発生するようです。
つまり…
お団子状の地下で生活するキノコから冬虫夏草状のキノコが生えている、ということなのです!
いったいどうしてこのような特殊な生き方をしているのでしょうか…。
両者それぞれに個性が強いのに、組み合わさるとますます個性的ですね。
この標本は、10月末の定例キノコ調査の際に発見されました。
佐渡島内では初めての分布記録かもしれず、今後の分類や生態研究においても重要な情報となる可能性があります。
また地下生菌と菌寄生菌ともにそれほど多く見つかるわけではないことなどを考慮し、今回の標本は神奈川県立生命の星・地球博物館に所蔵してもらうことになりました(標本番号 KPM-NC 28497)。
いつか面白い研究に結び付くと嬉しいですね。
佐渡でもキノコの調査シーズンの終盤に差し掛かりましたが、ちょうど今頃はナメコやナラタケ類などの食用キノコも多く発生しています。
くれぐれも、わからない種類や自信のない種類は食べないようにご注意ください!!