2020年11月11日水曜日

2020/11/1 佐渡ゼミ&佐渡市市民環境講座「佐渡島の生物はどこから来たのか」「ホネの魅力」

10/31(土)に行われた「漂着イノシシ掘り起しワークショップ」に続き、翌11/1(日)には第42回佐渡ゼミとして「佐渡島の生物はどこから来たのか?(阿部晴恵・新潟大学佐渡自然共生科学センター)」「ホネの魅力(西澤真樹子・なにわホネホネ団/大阪自然史センター)」の講演が行われました。

こちらは、佐渡市が一般市民を対象として開講している佐渡市市民環境講座との連携講座にもなっています。

演者を除き、新大関係者を含め58名が聴講しました。

佐渡市市民環境講座の広告

まず、当演習林の阿部先生の講演は「日本列島及び佐渡島の成り立ち」「過去数十万年の間に起きた気候変動及び海面変化」などの地史に関する紹介から始まりました。

私たちは過去に堆積した地層や化石などを基に、いつの時代に海底または陸上であったのか、現存する生物がいつどこからどのように移動してきたのか、などを推測することができます。

佐渡島は約500~250万年前頃に海底が隆起して現れたと言われ、日本列島とは長い間(もしかするとこれまでずっと)地理的に離れた状態が維持されている海洋島です。

(一時的に日本列島とつながったことがあるという説もあるようですが、地理的隔離状態が長いことには違いありません。)

また、佐渡のような海洋島に生物が移入する場合の3つのWのパターン「Wind; 風に飛ばされてくる,Wing; 翼で飛んでくる,Wave; 波に乗って運ばれてくる」の説明などがありました。


近年では生物各個体の遺伝情報に基づいて分布域の変遷や種分化の過程を解明する系統地理学的なアプローチも進められています。

この方法は周辺地域に分布する個体を含めて多数の遺伝情報を比較することで、どの地域間に遺伝的な類似性があるのか、どこが祖先的でどこが後から派生した系統か、などを明らかにすることができます。

遺伝情報の地理的な関係性と地史に関する情報を組み合わせることで、特定の地域の個体がいつどこから来たのか、を推定することにつながります。

講演では、サドモグラやアカネズミなどの佐渡に元から生息する動物の研究例が紹介されました。

定員の約5分の1に制限されましたが、多くの方が参加してくれました


現在、佐渡にイノシシは分布していません。

そして今回佐渡の海岸に漂着したイノシシは、どこから流れて来たのかわかっていません。

今後万が一にも生きたまま佐渡に上陸して新たな生息地として定住してしまったら…次々と子どもを産んで数を増やしてしまったら…どうなるか想像できますか?

佐渡の豊かな農作物も貴重な生態系も大変な被害を受け、元の生活に戻ることは困難となってしまうでしょう。

そのようなリスクを未然に把握して対策を講じる意味でも、この漂着イノシシの由来を調べることは重要なのです。

また現在佐渡に生息する動物でも、イタチやタヌキは移入動物とされているとのことですが、移入時期や経路は詳しく調べられていないようです。(※テンのみ、人間による明確な持ち込みの記録あり)


このように、佐渡のような海洋島は生物の移動暦や進化といった過去の履歴を時空間的に解明する上で重要な意味を持ちます。

将来的には、他の地域から佐渡に現存しない生物が移入してしまうと生態系も変化してしまう可能性があります。

過去から未来へとつながる生物や環境の変化を推測するためにも、現在、この島に生息する生物の地道な調査を続けていくことが必要ということですね。


そして、そのような調査を続けるうえで欠かせないのが「標本」です。

続いて本講座のメインである西澤氏の講演では、市民と博物館が一体となって標本作成を行う「なにわホネホネ団」の活動における楽しさと苦労、何よりもその重要性が語られました。

ホネの話を詳しく聞くのは初めてという方も多かったのでは

ホネをはじめとする生物標本は、その生物のサイズや形態そのものだけではなく、多様性や生活を知るための重要な情報源となります。

同じ種だから1つあれば十分なわけではなく、性別や年齢、地域、年代を含めた様々な標本が存在することが重要であり、それらを実際に並べて比べることで初めてわかることもある、という話が印象的でした。

日頃から多くの標本を扱っているからこその説得力がありますね。

さらに、なにわホネホネ団の標本作成の活動には小学生も参加しており、知識の上では優位なはずの研究者や大学生であっても、標本作成技術では小学生に謙虚に教えを請う姿がよく見られる、というエピソードもありました。

…確かに今回の漂着イノシシワークショップでも、子供たちの方が黙々と慣れた手つきで(コツをつかむのがうまいのでしょう)ホネのクリーニング作業に取り組んでいた印象が強いです。

前日のワークショップの様子…大きな背骨(胸椎)の洗浄も一人でやり遂げるという強いこだわりが感じられました

将来が有望で楽しみです!


また講演の合間には、大阪市立自然史博物館に所蔵されている実際のホネ標本を聴講者が観察し、その種名や佐渡での生息有無を当てる「ホネクイズ」が行われました。

ホネだけの姿になってしまうと、意外とわからないものです…

会場の一部では、西澤氏が所属する大阪市立自然史博物館のグッズ販売コーナーも準備されました。

そこには、前日のイノシシの骨の掘り起しに参加した子供や学生らの姿も。

すっかりホネの魅力に憑りつかれた様子の子供たちは、さらなる勉強のためにホネホネ団の本を買い求めていました。

かわいいイラストのサイン入りでうらやましい!

これから佐渡でもホネホネ団のような市民参加型の標本作成が可能な組織や設備が整えられ、佐渡発信で生物の歴史が明らかにされていくことを期待しています!!


0 件のコメント:

コメントを投稿